あなたは自分の強みを知ってる?夢や目標を達成するための正しいアプローチとは?

 

近年、さまざまなビジネスシーンで「自分の強みを活かす」というアプローチが注目されるようになってきているのを知っているでしょうか?

これまで、特に日本の企業では「苦手な部分をなくす」という日本の伝統的な教育方針の影響もあって、社内教育で自分の弱点部分を克服させたり、特別な研修を受けさせたりといった方法で一人ひとりの社員の成長を後押しする施策がとられる傾向がありました。

しかし長引く不況の影響や、労働に対する価値観の変容に伴って、多くの企業がはじめから高いパフォーマンスを発揮できる社員を求めるようになっており、そのために社員自身が先天的にもっている強みをビジネスに活かせるような環境づくりに力を入れ始めています。

ですが一方で、多くの日本のビジネスパーソンは「あなたの『強み』は何か?」と聞かれた際に、なかなかうまく答えることができません。自分の強みについて腰を据えて考えるという機会をもつこと自体が少ないからです。

そこで今回は、仕事で自分の強みを活かすための正しいアプローチについて考えます。まずは自分自身の強みを知るところからはじめましょう。

 

「強み」とは何だろうか?

そもそも、私たちの「強み」とは具体的にどういうものを指すのでしょうか?

多くの人は就職活動などの際に自分の強みについて書き出したりすることはありますが、それが具体的に何を意味し、自分の今後のキャリアのなかでどう活かすべきなのかを必ずしも明らかにしていません。

何となく「冷静に物事を考えられる」とか「他人の気持ちを察することができる」といったような漠然とした答えしか出していないのではないでしょうか?

その原因として、まず「強み」について社会的にはっきりとした定義がされていないことと、私たち自身が、自分の強みが人生にどれぐらいのインパクトを与えるものなのかを知らないことが挙げられるでしょう。

しかし自分の選んだフィールドで才能を発揮し、満足感ともに仕事をしていくためには、何よりもまず私たち自身の強みを正しく知る必要があるのです。心理学的にも、自分の強みを発揮できることと満足感・充実感との間には相関関係があるといわれています。

ほとんどのビジネスパーソンが自らの強みを正しく認識していない

経営学の父ともいわれるピーター・ドラッガーは『多くの経営者や起業家は自らの強みを知らない』と述べています。

生前の彼の調査によると、多くの経営者が自らの強みをうまく活かせないばかりではなく、そもそも強みとは何かということすらまともに認識していなかったといいます。常に自己研鑽を求められる経営者ですらそうなのですから、多くのビジネスパーソンが自らの強みについて正しく知らないのも仕方がないのかもしれません。

特に日本では、子供の頃から自分自身の苦手な部分や弱い部分を改善するように言われることが多いのが現状です。通信表では必ずといっていいほど「○○を直しましょう」とか「××の努力が足りません。もっと頑張りましょう」といったふうに、生徒の苦手分野や弱みを改善するためのアドバイスを先生が送るのが慣例になっています。逆に、弱点以上に強みを伸ばすように言われることはほとんどありません。

そういった社会的背景もあって、私たちは大人になっても、強みというものに対してどこか掴みどころがなく、漠然としたイメージしかもつことが出来ないでいるのです。そして自らの強みについて真面目に考えることなく、毎日与えられた仕事を淡々とこなす毎日を送っているのが現状ではないでしょうか?

強みに立脚せよ

しかし、多くの成功企業とそのスタッフ達を観察してきたドラッカーは、その著書『経営者の条件』のなかで

『何事かを成し遂げるのは、強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない。できないことによって何かを行うことなど、到底できない』

と断言しています。自らの強みに立脚することこそが、私たちの夢や目標を実現するためには極めて重要なことだといっているのです。

事実として、心理学や行動科学といった分野でも、自らの強みを磨く方が弱点の克服のみにフォーカスするよりも、長期的によりよい成果を出すことができることを明らかにしています。

これまで掴みどころがなく、その効用が必ずしも明らかではなかった人間の「強み」というものに対して、科学的な裏づけがされ始めたのです。

 

「弱み」と「強み」のどちらに注目するか

たとえば、作家のマーカス・バッキンガムと、心理学者のドナルド・クリフトンは、共著『さあ才能(じぶん)に目覚めよう(※原題:Now, Discover your strength)』のなかで、優れた成果を上げている企業のマネジャーが共通してもっている認識として、

  1. 人の才能は一人ひとり独自のものであり、永続的なものである。
  2. 成長の可能性を最も多く秘めているのは、一人ひとりが一番の強みとして持っている分野である。

(前掲書,12頁 )

と述べています。これはスタッフ一人ひとりに強みを自覚させ、日常的に活かすことによって組織全体の生産性を向上させられる可能性を示唆しています。

「弱み」の克服よりも「強み」を活かすアプローチ

しかし冒頭でも述べたように、多くの日本企業の人材教育では、一人ひとりの「弱み」を克服させることにフォーカスしたカリキュラムが敷かれています。そして、その出来・不出来によってその後のキャリアや待遇が決まってしまうことも少なくありません。

確かに、一人ひとりの社員の弱点を否が応にも克服させれば、ある程度は企業として業績を上げることはできるかもしれません。しかし、長年さまざまな企業とその従業員の「強み」と「弱み」の研究を行ってきたマーカスは、そのようなアプローチは企業の長期的な繁栄には寄与しないと批判しています。

弱みの克服に終始するよりも、従業員個人が自分の強みを発揮できる環境を整える方が、結局は企業にとってもプラスになるということを明らかにしているのです。いみじくも、ドラッカーが『強みの上に築け!』と言ったようにです。

「強み」を厳密に定義するとどうなるか?

それでは、私たちにとっての「強み」を厳密に定義するとどうなるでしょうか?

当然、人によって強みに対する考えは違っていますし、これまで専門家の間でも、その拠って立つ分野によってそれぞれ違った捉え方をしているケースがほとんどでした。しかし近年では、人間の能力開発分野の研究が進むにつれて、私たちのもつ強みについて徐々に明確な定義が与えられるようになってきました。

その一例として、前掲の『さあ才能(じぶん)に目覚めよう』では、『強みとは常に完璧に近い成果を生み出す能力のことだ』と定義しています。

完璧という表現に尻込みしてしまう人も多いかもしれませんが、実はどんな人にも相対的に人よりも上手くできることが存在します。

当然、その分野でも「上には上がいる」という厳然たる事実はあるわけですが、それでも無意識のうちにそれなりの成果が出せてしまう分野というのが、どんな人にでも存在するのです。あなたも過去を振り返ってみると、いつの間にか成果を挙げられていたという事柄が一つや二つあるのではないでしょうか?

 

 

あなたの「強み」の見つけ方

私たち自身の強みを発見するためのヒントは「過去」にあります。これまでさまざまな状況において、自分がどのような振る舞いをしてきたのか、それによってどういう結果が得られたのかを冷静に振り返ってみましょう。

私たちは知らず知らずのうちに得意分野で自らの才能を発揮しているものです。それが自分にとってはあまりにも当たり前のことすぎるために、殊更に意識しなければ気づかないのです。

前掲書でも『才能(分野)を見つけるためにまず最初にやるべきことは、さまざまな状況下で自分は無意識にどのような反応をしているのか、自分自身をよく観察することだ』とあります。私たちがする反射的な反応は、強みを発揮できる分野を発見するための最も有力な手がかりです。

多くの人は、目の前の仕事に時間をとられるあまり、じっくりと腰を据えて自分の才能分野、つまり強みについて客観的に把握しようとしません。しかしこれまで述べてきたように、自分の強みこそが道を拓くのですから、ある程度の時間を費やしても発見する価値があるはずです。

 

あなたが自然に結果を出せてしまう分野を明らかにしよう

ただし、注意しなくてはならないのは「自分の好きなことが、そのまま強みになっているとは限らない」ということです。私たちは、つい自分の好きなことこそが強み分野であると勘違いしてしまいがちですが、必ずしもそうではないのです。

たとえ好き・楽しいと感じられる事柄であっても、結果として成果に繋がっていないならば、それは強みということはできません。ドラッカーの言うように『強みは決して抽象的なものではなく、成果という具体的なもののなかに、その姿を表す』ものです。

自分の強みを正確に把握するには、何となく楽しいという曖昧な感情ではなく、たとえ自分が気づいていなかったとしても、自然に成果を挙げられる事柄は何かを根気強く見つけ出す必要があります。

人それぞれ「強み」となる分野は違っていますから、まずは自分自身としっかり向き合って、日頃の行動と成果を客観的に把握するように努める必要があります。

「日記」のススメ

強みを見つけ出すための具体的な方法として、向こう何ヶ月か日記をつけてみるなどして、自分の行動とその結果について記録してみることがあります。

これはドラッカーの提唱する『フィードバック分析』の簡易版ともいえる方法で、まず自分なりに強みだと思う事柄について仮説を立て、毎日の行動記録のなかでその検証を行っていくアプローチです。

つまり、自分の「強み」が日頃の生活でどのように発揮されるのかを、自分なりに調査してみるわけです。もしその仮説が間違っていれば、再度別な仮説を立てて検証を繰り返します。人によっては時間がかかるかもしれませんが、自分の強みを発見するための確実な方法といえます。

特に周囲から評価されている項目や、成果を出しやすかった事柄に注目しながら検証を進めることで、徐々に決まったパターンのようなものが浮き彫りになってくるはずです。それが自分の強みである可能性が高いということになり、さらに検証を進めることで、確実に強みだと認識できようになるはずです。

できれば月に一度は、日記をもとに自分の強みについて検証する時間をとりましょう。きっとあなたのなかで一貫して高いパフォーマンスを挙げている事柄が見つかるはずです。

それこそがあなた独自の強みであり、それを大切に育てていくことで、他者には真似できないほどの成果を上げる武器となるのです。

 

最後に

自分の「強み」を正しく認識することの重要性について解説してきました。徐々に風向きが変わってきたとはいえ、我が国は強みに注目しづらい社会であり、社員の強みを活かすといったアプローチをとる企業は、まだまだ多くはありません。

しかし多くの研究者が指摘しているように、人間が最も高いパフォーマンスを上げることができるのは、その人の才能をフル活用できる強み分野に他なりません。自分の強みを理解し、それを存分に活かせる環境を整えることこそが、充実した人生を送るための秘訣であるといっても過言ではないのです。

本記事では、強みを発見するための第一歩として、自分自身とよく向き合うこと、自分の行動と成果をできるだけ客観的に観察することを挙げました。ぜひ今日から、この2つを実行してみてください。徐々にあなた自身の強みが明らかになってくるはずです。