ポジティブ思考で自分を変えられるのは本当?夢を実現するための正しいアプローチとは?

あなたはポジティブな人になりたいと思ったことはありますか?

それとも、ネガティブな自分にうんざりしたことはないでしょうか?

もっと前向きに生きられたら、きっと今頃は夢や目標を叶えていたかもしれない。そんな思いを抱いたことがある人はいるはずです。

あるいはもっと自分がポジティブだったら、好きな仕事に就いてたくさんお金を稼ぎ、好きなライフスタイルを送れてるはず…。そう思う人もいるでしょう。

しかし実際は、それでもなかなかポジティブに物事を考えられず、クヨクヨと悩んだり過去の出来事を思い出して嫌な気分になってしまう。そんな悩みを持っている人は決して少なくないのです。

今回は、そんな人にとっては目から鱗になるかもしれません。これまで万能だとされていたポジティブ思考の罠に関するお話です。

ポジティブこそが人生を変えるというのは本当か?

日本では、これまで何事もポジティブに考え、行動するのがよいとされてきました。

「どんなことでもポジティブに考えれば成功する」とか「幸せの秘訣はポジティブであることだ」といった考え方は、ビジネスや自己啓発の分野ではお馴染みの考え方です。

反対に、ネガティブな発言や考え方は疎まれる傾向があり、何となく口に出してはいけないような空気がありましたし、実際に咎められることも少なくありませんでした。

「成功して幸せな人生を送りたければポジティブであるべきだ」というのが、どんな自己啓発本にも書かれているような当たり前の話だったのです。

あるいは、ネガティブな考えが頭を過ぎってもそれ以上考えないようにして、代わりにポジティブなイメージを膨らませるといった手法もよく教えられていました。

さらには「成功した自分を想像してポジティブに考えていけば夢や目標は叶う」という思想も、自己啓発本やコーチングなどの書籍では至極当然の結論として広く受け入れられてきました。あなたもこういった分野を勉強したことがあるならば、一度は聞いたことのある主張でしょう。

ポジティブ思考への疑義

しかしここ数年、こういったポジティブ至上主義ともいわんばかりの風潮に疑問が呈されるようになってきました。それは主に心理学や行動科学といった分野の実証実験がきっかけになっています。

たとえば20年以上も人間のモチベーションについての科学的研究を行ってきた心理学者のガブリエル・エッティンゲンは、その著書『成功するにはポジティブ思考を捨てなさい』のなかで、以下のように述べています。

『(過去の経験とかけ離れた)ポジティブな空想や願い、そして夢は、充実した人生に向けて行動するモチベーションには変換されなかった。正反対のものへと変わったのだ。』

(前掲書)

つまり、ポジティブな考えやイメージといったものは、実際に人生で成功するための行動のモチベーションになるとは限らないと述べているわけです。これはポジティブ思考が万能だと思っている人にとっては驚くべきことでしょう。

成功をイメージした学生達の将来は?

さらにエッティンゲンはドイツの大学で80人程度の学生を集め、将来の自分が就く役職に関するポジティブな想像をしてもらい、それがどれぐらいイメージとして頭の中を過ぎるか学生達に点数をつけてもらう実験を行いました。

それから約2年間、この学生達を追跡調査してわかったことは、なんと『ポジティブな空想をひんぱんにしていた学生ほど、成功していなかった』という事実でした。

彼はポジティブ思考に関する同じような実験を繰り返しましたが、どれもポジティブなイメージや空想を繰り返した被験者ほど、結果を出すことができませんでした。ポジティブ思考万能主義は、実証実験と実践的な統計の力により脆くも崩れ去ったのです。

 

ポジティブ思考に嵌るとメンタルが安定しなくなる

こういった数々の実験によって、エッティンゲンは『将来についてただ夢見るだけでは、その夢や願いが叶いにくくなる』と述べています。自己啓発の分野でよく言及される「自分の夢が既に叶ったかのような夢想をする」というアプローチは、科学的に間違いであると証明されてしまったわけです。

このように心理学などの分野では、これまで金科玉条のように扱われてきたポジティブ思考に対する疑問が科学的実験の結果として提示されはじめています。

実際には、ポジティブ思考が有効なのは限られたケースのみです。盲目的に万能だと思い込んでいると、思わぬしっぺ返しを受けてしまう危険があります。

たとえばポジティブ思考に嵌っている人ほど気分の変調が激しく、よりネガティブな精神状態になってしまう傾向があることが知られています。まるで柱時計の振り子が振れるように、ポジティブな状態からネガティブな状態を往ったり来たりして、結果としてメンタルが安定しなくなってしまうのです。

もしあなたがネガティブな自分を変えたいがために、極端なポジティブ思考やポジティブなイメージを思い描くことに終始しているならば、そのアプローチは思わぬ副作用を伴って還って来るかもしれません。早急にアプローチを変える必要があります。

 

 

本当の心の成長に必要なのは?

それでは、ポジティブ思考以外に私たちが安定したメンタルで確実に成功への道を歩み続けるには、具体的にどういうアプローチが効果的なのでしょうか?

二重思考のススメ

ひとつのアプローチとして、かつて作家のジョージ・オーウェルは、小説の中で「二重思考」という考え方を登場させたことを挙げておきましょう。これは自らの心の裡の相反する考え方を混在させ、まずそれらをありのままに受け入れてみるという手法です。

これを私たちの身の回りで起こるさまざまな出来事に当て嵌めてみると、物事のポジティブな側面とネガティブな側面をそのまま受け入れるということになります。どんな物事にも2面性というものがあるものですから、それをありのままに受け入れるということです。

つまり、事実を事実のまま受け入れたうえで冷静にその出来事を分析し、自分の夢や目標の実現のためにどういう反応をすればよいか、どういう行動に繋げればよいか判断しようということです。そういった方法で自分にとっての正解を模索していけば、徐々に思い描いた将来の姿に近づいていくことが可能になるでしょう。

メンタル・コンストラクティングとは?

奇しくもこの手法は、エッティンゲンの推奨する「メンタル・コンストラクティング」という手法と同じアプローチです。これは簡単に言えば、夢や目標を叶えた状態を想像するだけではなく、その実現を妨げる障害についてもしっかりと思い描く方法です。

メンタル・コンストラクティングでは、将来の自分の姿をイメージするだけはなく、そこに至るまでに考えられる障害を出来るだけ詳細に想定します。そして、実際にその障害が発生したら具体的にどう対処するかを明確にしておくことによって、人間は行動のためのエネルギーが湧いてくるとエッティンゲンは述べています。

即ち、メリットと障害を正しく認識することが、夢や目標を達成する確率を最も高めてくれるアプローチだということです。しっかりと事実を認識し、将来の計画を立て、繰り返しアプローチていく…。それが私たちのメンタルを安定させ、確実に成果を出し続ける方法なのです。

 

問題なのはあなた自身ではない

もし、あなたがポジティブ思考を頑張れば頑張るほど、それ以上にネガティブになってしまう自分にうんざりしていたり、ネガティブな自分は駄目だと思い込んでしまっているならば、今日からその考え方を改めましょう。

それはあなた自身が問題なのではありません。ポジティブ思考という偏った考え方がそもそもの原因であり、ネガティブな自分を否定しようとするアプローチこそが問題なのです。

ポジティブ思考のような根拠のない偏った考え方に固執するのではなく、しっかりと地に足のついた科学的な根拠のあるアプローチを実践していくことが必要です。そのためにはまず、自分のことをしっかりと受け入れなくてはいけません。

 

自分自身を受け入れる

自分自身とうまく共存できなければ、劣等感に苛まれてしまったり自己否定を繰り返すようになって、ポジティブ思考のような偏った方法論に縋(すが)ってしまうことになります。ポジティブ思考に嵌る人たちの多くは自己受容ができていないために、極端な手法に頼ってしまっているのです。

自分自身の長所も短所も受け入れることができれば、常に自分をフラットな状態に置き、夢や目標の実現のために適切なアプローチを繰り返すことができるようになります。夢はイメージしているだけで叶うことは絶対にありません。目標に基づいて行動を計画し、確実に行動していく必要があるからです。

当然、これは一朝一夕で上手くいくということはありません。自分なりに地道に努力と試行錯誤を重ねていく必要があります。残念ながら、自己啓発本が謳っているような「一瞬で自分を変える」といった方法など実際は存在しません。

自分自身を受け入れ、これまで述べたきたような確実な方法で一歩一歩進んでいくしかないのです。遠回りに感じられるかもしれません。しかし、これこそが確実に成果が出る唯一の方法といえます。

 

最後に

ポジティブ思考の真実について、主にエッティンゲンによる心理学実験の結果を基に説明してきました。普段、ポジティブ思考を実践している人にとってはショックを受ける内容だったかもしれません。

しかし、何事にも万能などというものはないのです。ポジティブでさえいれば、すべての問題が解決することなどありえません。むしろそういったイメージこそが、私たちの行動するエネルギーを奪ってしまったり、情報処理能力を歪めてしまうことが明らかになっています。

逆に、地道で泥臭く感じられたとしても、物事をフラットな視点で分析し、目標の実現のために計画を立てて愚直に実行する人こそが成功しやすくなります。

ただ何もせず成功を夢想しているだけで人生が変わることはなど絶対にありません。ポジティブ思考を万能と考えずに、私たちの前に立ちはだかる障害にもしっかりと目を向けてください。そして、どうすればそれを乗り越えられるかを考えましょう。

ポジティブなイメージも大切ですが、冷静な視点とそれに基づいた計画、そして何より自分自身の地道な行動こそが人生を変えるのです。